遅れてきた生

今こそ幻想がいる

かくして、ソルジェニーツィンのおかげで

かくして、ソルジェニーツィンのおかげで、「人権」という表現は現代の語彙のなかにその場所を取りもどすことになった。一日に十度、「人権のための闘い」や「踏みにじられた人権」という言いかたを援用しない政治家を私は知らない。しかし、西欧では強制収容所の脅威のもとで生きているのではないから、どんなことでも言ったり書いたりできるのだから、人権のための闘いは人気を獲得するにつれて、具体的な内容を失い、結局は万事にたいする万人共通の態度のことになったり、あらゆる欲望を権利に変形する一種のエネルギーになったりするのだ。
 
ミラン・クンデラ 『不滅』より。